娘はお年頃なので本来お風呂が好きな筈である。
しかし、この病気の患者さんにとってお風呂は鬼門でもある。
立っていると頭痛がひどくなる。急激な血圧の変動にも体調が変化する。特に脱水は大変身体に悪いと来ているので、調子のいい時に入浴するという方が多いと思う。
娘はそれにしてもお風呂に入らない。入れないのか入りたくないのか判断がつかず、基本体調が良い時は皆無であるので無理は言わずにいた。
しかし、ある時、頭に直系1~2センチくらいの頭皮の剥離したもの(ふけ)が沢山現れていたので、たまりかねて言った。
「いくら何でも、頭洗わんと虫が湧いてくるで~」
すると、娘はじろりとこちらを睨み、ぼそぼそと語り始めた。
「今まで思いだすのが嫌で言わなかったんだけど、5月の入院中、学校のみんなが淡路島に行く前の日に、あまりに辛くて、シャワー室に入って、周りに聞こえないようにシャワー全開にして浴びながら号泣してたんやで・・・この日までには治りたかったのに!私は何も悪いことしてないのに、なんでこんな目に合わなければいけないのかっ!て。それ以来、お風呂入るとその時の事思いだして苦しくなるから、なるべくお風呂入りたくないねん。」
娘の入院していた病院は明石のJR朝霧駅からバスで少し山手にいったところに位置し、窓からは、明石海峡大橋とその向こうの淡路島が見渡せる。
まさに、その翌日、学校のみんながバスを連ねて明石海峡を渡った日の朝から、娘は病院の食事が全く喉を通らなくなり、布団をかぶってずっと泣いていたために家に強制送還となったのだ。
この時からしばらく鬱状態になり、体重は39キロ(166センチ)まで落ちてしまった。
明石海峡大橋は同級生にとってはわくわく体験の始まりの架け橋だったけど、あなたにとっては自分と同級生の境遇の明と暗を隔てるように明石海峡が無情にも横たわっていたんだね。本当に、本当に、出発の日までに治って友達と一緒に橋を超えたかったんだね。
そこまで辛かったとは、大人である私にはわからなかったよ。ごめんね・・・
楽しみに満ちた生徒たちを乗せて、何台も連なって淡路島へと続く橋を渡るバスと、それを見渡せる病院で点滴に繋がれ一人孤独にベッドに横たわる娘。何と残酷な構図であろうか・・・
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